テアトル新宿での映画鑑賞体験について共有します。
Xの情報に触れ、新堂兼人脚本賞を受賞した映画群がナイトショーで上映されると知り、素晴らしい脚本を元にした映画が大好きな私にとって、これを逃す手はありませんでした。その中の一つが、石井裕也監督と宮沢りえ主演による作品でした。
ナイトショーの魅力
ナイトショーでは、入場者数は多くはありませんでしたが、観客は明らかに映画好きの集まりだと感じられました。 私は現金でチケットを購入しましたが、特に若い観客の多くがPayPayで支払いをしていたようです。
東京都新宿にあるテアトル新宿でこの映画を鑑賞しました。交通は京王井の頭線を利用し、三鷹台から明大前、そして京王線で新宿駅へと向かい、そこからはスマホのナビを頼りに徒歩で移動しました。ナイトショーは深夜2時頃にスタートし、天候は雨上がりでした。
最後部中央の席からの鑑賞体験と感想
かつて実際にあった皇子の毒殺事件をモチーフに、緊張感の張りつめたサスペンス映画として仕上げられた作品で、とても楽しめました。真実のわからない実在の事件をこう膨らませるのかというアレンジと設定の巧みさがよく効いていました。
腕を買われて王宮に仕えることになった盲目の鍼医者が、ある夜事件を「目撃」したことから、王宮に潜む陰謀や思惑に巻き込まれ、そして自身の命も危険にさらされていくというストーリー。朝鮮王朝時代に馴染みが薄かったので物語に入っていけるの心配したのですが、主人公回りの事情の説明や、王宮に迎え入れられる経緯、仕事の内容などを、ときにユーモアを交えつつ導入が進んだのでスムーズに作品世界に没入できました。
登場人物も少なめに配置されていて、個性も豊か。明らかに腹に一物抱えてそうな人物たちからは事件前から緊張感を覚えさせ、やがて事件の発生とともにすべてがスピーディに展開していきます。事件の様相の変化とともに判明する思惑、人間の裏切りまたは信頼の目覚め、それらが闇夜の中で展開し、まさに手に汗握る展開でした。
主人公の「目が見えない」設定の生かし方が絶妙で、「今彼には何が見えているのか、見えていないのか」という現実的な状況にハラハラしつつ、「見えてはいけない真相」「見て見ぬふりをする策謀」という思惑にかき乱されて、逃げ惑う主人公とともに心拍が乱れるような気持ちになりました。
主役を演じたリュ・ジュンヨルの役作りも素晴らしかった。感情の起伏を抑えて生きざるを得なかった主人公の半生が慮れるような控えめな所作と、逆に盲目であることを「利用」するために彼が選んだ振る舞いを違和感なく表現していました。また、これまではコミカルな役柄が多かったのが、今回は冷徹な王の役に徹したユ・ヘジンの胆力も印象的でした。そしてコミカルリリーフ的な存在で、作品の序盤を引っ張ってくれたパク・ミョンフンもとても良くて、作品の緊張感をいい意味でゆるめてくれました。
物語では闇夜の場面が多いのですが、その暗闇を単に真っ暗でなくほのかな明かりや白い衣、月光などでうまく陰影を作り出していて、絶妙な加減の暗さになっていたのが巧いなとも感じました。
夜が主な舞台となるからこそ、また見えない主人公だからこそ、暗闇をどう美しく映えさせるかにも気を払われた作品だと思えました。ただ、音楽だけがちょっと盛り上がりを過剰に演出しているような感覚を受けましたが、これは好みによるのかもしれません。
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